オオカミの狩は持久力勝負

オオカミの狩は、ネコ科の猛獣に比べれば圧倒的な力を感じさせるものではありません。持久力型の狩だからです。

イエローストンなどのよく見通しのきく場所で目撃される狩は、主に以下のようなやり方で行われます。

・エルクの群れが固まっている場所にオオカミの群れが姿を現す。

・オオカミの群れがゆるやかに走り出し、エルクを追い立てる。まるで牧羊犬が羊を追うように。これをテストランと言います。

・その中から、ケガをしている、弱っている、年老いている、幼い個体に狙いをつけ、エルクの群れから切りはなすように誘導する。

・走るエルクに並走し、一頭が蹴られる危険性の少ない肩に咬みつき、強力なアゴの力でぶら下がり、体重をかけて引きずり倒す。

・別の一頭がエルクの喉や鼻づらに食らいつき、窒息させる。

必要な能力は

狩にはいろいろな場面やパターンがありますから、こればかりではありませんが、オオカミの狩に必要な重要な共通の要素は、走る力とアゴの力です。

走る力は、ネコ科と対照的に持久力です。シカ類を追いかけて、相手が疲れるまで追い続けることもよくあります。

アゴの力は、トラやジャガーのような、首をへし折ったり、頭蓋骨を噛み砕いたりというほどの強力な力ではなく、エルクの肩に咬みついて、どんなに振り回されても離れないような類の力です。

またもう一つ重要なのが、どうしてそんなことが可能なのか、視覚によるのか嗅覚によるのか、まだよくわかっていませんが、シカの群れを追い立ててテストランをさせている間に、弱った個体を見極め、獲物として選び出す洞察力です。テストランはオオカミに特徴的な狩の方法です。

D・ミーチ博士は、オオカミが食べ終わった獲物の状態を確認すると、必ず脚に怪我や炎症が見つかると言っています。

オオカミは有蹄類のお医者さん

シカでもイノシシでも健康な獲物を狙えば、獲物の角や蹄、牙で自らが傷つく可能性がありますから、オオカミは、その危険を冒したくありません。そこで弱いもの、病気、ケガの個体、子ども、老齢個体を狙います。健康な個体だけの場合には、狩そのものを中止することもあるほどです。それでも狩の成功率は低く、平均すれば10回に1回か2回成功する程度です。

シーズン通して行われている食性調査では、春先に産まれた子ジカがまだ小さい春から秋にかけては子ジカを、冬の間は繁殖時のメスの囲い込みで力を使い、弱っているオス、通年で老いたシカ、メスジカを捕食しているという調査結果が得られています。

主として弱った獲物を狙う結果として、シカの群れには健康な個体が残り、シカ個体群は、健全な遺伝子を残すことができます。そうしたオオカミが獲物動物の個体群全体に及ぼす効果を衛生効果といいます。

オオカミの学習能力

狩の技術の習得に関してオオカミとイヌには大きな差があるようです。オオカミとイヌを同時に飼育して観察した動物学者、エリック・ツィーメンは「オオカミ」という著書のなかでそのことをこう書いています。

オオカミは「どのようにして獲物にうまく忍び寄るか、どのように跳びかかり、どのようにして殺さなければならないかは一度でマスターする」

一方イヌは「狩のために特別に育種されたイヌを含めたすべてのイヌは、最初ははるかにへたである。とくにネコのような闘争能力に優れた獲物に対してはそうである。オオカミが即座に、そして完璧にできることを、イヌは苦心して学ばなければならない」

 

※「オオカミ その行動・生態・神話」エリック・ツィーメン著 今泉みね子訳 白水社 2007年